園芸の増やし方 / 図解手順書

取り木のやり方

枝の樹皮を環状に剥ぎ、幹につけたまま発根させてから切り離す――親木と同じ性質を受け継いだ苗を、挿し木より早く大きく仕立てられる伝統の繁殖技術です。

01

取り木とは

取り木(とりき)は、木の枝の樹皮を一部剥ぎ取って発根処理を施し、親木につながったまま根を出させてから切り離す繁殖方法です。挿し木のように根も葉もない状態から育てるのではなく、枝についた葉で光合成をしながら発根するため、活着率が高く、最初からある程度の大きさの苗が得られます。

親木のクローンになる

種から育てるのと違い、花色や実付きなど親木の性質をそのまま受け継ぎます。

大きな苗がすぐ得られる

すでに育った枝を使うため、挿し木より短期間でボリュームのある株になります。

失敗しても親木は無事

発根前は親木とつながったままなので、根が出なくても枝を失うだけで済みます。

02

作業の適期

取り木は生育が盛んな時期に行うほど発根が早く、成功率も上がります。落葉樹と常緑樹で適期が異なります。

落葉広葉樹

モミジ・サクラ・ウメ など

1月4月7月10月12月

新芽が動き出す3〜4月が適期。樹液の流れが活発で、剥皮後の発根が早い。

常緑広葉樹

ツバキ・キンモクセイ など

1月4月7月10月12月

気温・湿度が高い梅雨時(6月頃)が最も成功しやすい。乾燥期は避ける。

03

準備するもの

剪定バサミ・ナイフ

よく研いだものを。切れ味が悪いと形成層が潰れて発根しにくくなります。

水苔(ミズゴケ)

乾燥品をたっぷり水で戻し、軽く絞って使用。保水と発根の土台になります。

ビニールシート

透明の袋やラップ。水苔の乾燥を防ぎ、発根の様子も外から確認できます。

紐・園芸テープ

ビニールの上下をしっかり縛って密閉するために使います。

発根促進剤(任意)

ルートンやメネデールなど。発根までの期間を短縮し成功率を高めます。

支柱

太い枝や高い位置で作業する場合、枝が折れないよう支えに使います。

04

基本の手順 ― 環状剥皮法(高取り)

もっとも一般的な「高取り法」の8ステップです。庭木・盆栽・観葉植物まで、幅広い樹種でこの方法が使えます。

1

枝を選ぶ

今年〜2、3年目の充実した枝で、太さは鉛筆〜親指程度、まっすぐで健康なものを選びます。あまり若すぎる枝は樹皮が薄く剥皮しにくいので避けます。

2

樹皮を環状に切り込む

ナイフで枝を一周するように、幅 2〜3cm の間隔で平行に2本切り込みを入れます。縦にも1本切れ目を入れると剥がしやすくなります。

3

樹皮を剥ぎ、形成層を削る

切り込みの間の樹皮をすべて剥ぎ取ります。剥いた後に残るぬめりのある薄皮(形成層)もナイフの背でしっかり削り落とすのが最大のコツ――ここが残ると再生してしまい発根しません。

失敗しやすいポイント
4

発根促進剤を塗る(任意)

剥いた部分の上側の切り口を中心に、発根促進剤を筆や綿棒で塗布します。省略しても発根しますが、期間が短縮され成功率が上がります。

5

湿らせた水苔を巻く

たっぷり水を含ませて軽く絞った水苔を、剥皮部分を包むように厚さ 2〜3cm ほど巻きつけます。乾燥させないことが発根の生命線です。

6

ビニールで包み、上下を縛る

水苔ごと透明のビニールでくるみ、上下の端を枝にぴったり密着させて紐でしっかり縛ります(俗に「ミイラ巻き」)。すき間があると乾燥・雨水の侵入の原因になります。

7

発根を待ち、管理する

1〜3ヶ月ほどで、ビニール越しに白い根が見えてきます。水苔が乾いていたらビニールの端から少量注水し、直射日光が強い場合はアルミホイル等で遮光すると蒸れを防げます。

8

切り離して植え付ける

根が十分に回ったのを確認したら、根の塊のすぐ下でハサミやノコギリで切り離します。ビニールは静かに外し、水苔を崩さないまま鉢や庭に植え付けます。植え付け後しばらくは半日陰で乾燥に注意して管理します。

05

ペットボトルを使った方法

水苔+ビニールの「ミイラ巻き」の代わりに、ペットボトルを小さな鉢のように枝に取り付けるやり方です。透明なので水分量や根の様子が外からひと目で分かり、保水力も高いので水やりの手間が少なく済みます。太い枝や屋外で雨風にさらされる場所での取り木に特に向いています。

保水力が高い

中に詰めた水苔・用土がたっぷり水を保つため、数日おきの水やりでも乾きにくい。

根の様子が見える

透明な壁越しに発根の進み具合を確認でき、切り離すタイミングを判断しやすい。

型崩れしにくい

硬いボトルが枝をしっかり保護するので、太い枝や風雨の当たる屋外でも安定します。

ボトルサイズの目安:細い枝(直径1cm前後)は500ml、太い枝(直径2cm以上)は1.5〜2Lが扱いやすい。

1

ボトルを加工する

ペットボトルの底を切り取り、縦に一本切れ込みを入れて開きます。さらに上下(キャップ側と底側)に枝の太さに合わせた半円の切り欠きを作っておきます。

2

剥皮した枝に取り付ける

剥皮と形成層を削る作業は04の②③と同じ要領で行います。その剥皮部分がボトルの中央にくるように、縦の切れ込みから枝を差し込んで取り付けます。

3

隙間をテープで密閉する

縦の切れ込みと、上下の枝を通した部分の隙間をビニールテープでしっかり塞ぎます。ここに隙間があると水分が抜けて乾燥してしまいます。

4

水苔や用土を詰める

湿らせた水苔(または赤玉土とピートモスを混ぜた用土)を、ボトルの中にすき間なく詰め込みます。上部に水を注げる小さな口を残しておくと、後の管理が楽になります。

5

水やりしながら発根を待つ

上部の口から定期的に水を注ぎ、中が常に湿った状態を保ちます。1〜3ヶ月ほどで、ボトルの内側に白い根が見えてきます。切り離しと植え付けは04の⑧と同じ要領です。

06

剥皮しにくい木には「舌状剥皮法」

マツ類・イヌマキなど針葉樹・一部の常緑樹向け

樹皮を一周すべて剥ぐと株元まで枯れ込みやすい樹種では、枝の片側だけをナイフで舌状(べろ状)に薄く削ぎ、そこに水苔を当てて発根させる方法が使われます。環状剥皮法よりやや時間はかかりますが、枝への負担が少なく安全です。

07

取り木ができる木の種類

取り木はとても適応範囲の広い方法で、庭木・盆栽・果樹・観葉植物まで多くの樹種で行えます。目安として、発根のしやすさを●の数で示しています。

分類代表的な樹種発根のしやすさ
落葉広葉樹適期:3〜4月 モミジ・カエデ類、サクラ、ウメ、ハナミズキ、ライラック、フジ
常緑広葉樹適期:6月(梅雨) ツバキ、サザンカ、キンモクセイ・ギンモクセイ、クチナシ、ツツジ・サツキ、シャクナゲ
果樹適期:初夏 イチジク、ザクロ、ブドウ、柑橘類、ビワ
観葉植物通年(室内) ゴムノキ(フィカス)、ベンジャミン、パキラ、ウンベラータ、ドラセナ、モンステラ
針葉樹舌状剥皮法推奨 クロマツ・アカマツ、ゴヨウマツ、イヌマキ 上級者向け
08

よくある失敗と対策

何ヶ月たっても根が出ない
形成層の削り残しが最多の原因。剥皮部分がぬるっと光っていないか確認し、竹べらなどで表面を丁寧に削り直します。時期が早すぎる/遅すぎる場合も発根が遅れます。
水苔がすぐ乾いてしまう
ビニールの密閉が甘いのが主な原因。上下の縛りを枝にぴったり密着させ、真夏は西日の当たらない場所を選ぶか遮光します。
水苔が黒く腐ってしまう
水のやりすぎと風通し不足が原因。水苔は「しっとり」程度で十分です。ビニールに小さな空気穴を数か所開けると蒸れを防げます。
発根前に枝の先が枯れてきた
剥皮位置が幹に近すぎ、上部の葉に水分・養分が回らなくなっているサインです。次回は先端側に葉を多めに残せる位置で行いましょう。